日本の絵本はここから始まった⁉ 超ロングセラー1950年代の絵本まとめ

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イチゴ(次女)
イチゴ(次女)

日本でいちばん古い絵本ってなあに?

マイタケ
マイタケ

それは難問だなあ…
絵本の定義を何にするかによって回答が変わりそう。

絵と文が一緒に書かれた本ということなら奈良時代のお経まで遡るけど、今のように広く人々が手に入れられる子ども向けの本なら江戸時代の赤本になります。

鳥獣戯画や源氏物語の絵巻物など、古くから絵と文章は一緒に親しまれてきましたね。

明治に入ると幼年文学が花開くように一気に出版されていきました。
月刊の児童向け絵雑誌などがいくつも創刊され、カラフルな表紙が子どもたちを惹きつけました。

ラテ(長女)
ラテ(長女)
明治・大正時代の絵雑誌の表紙

絵雑誌ってこんなやつだよね~
博物館で見たことある!
今でいうとコロコロコミックとかジャンプ?

その後、『桃太郎』など日本の昔話やグリム・アンデルセンなど世界の童話がカラフルな絵本として出版されました。

そのような流れの中、1953年に石井桃子さんや光吉夏弥さんの企画・編集による『岩波の子どもの本』の刊行が始まり、1冊の絵本で1つの物語を語る“物語絵本”が定着していくことになります。

マイタケ
マイタケ

つまり、イチゴが想像しているような絵本でいちばん古いものは『ちびくろ・さんぼ』『ふしぎなたいこ』ですね!

今回はそんな日本絵本の黎明期ともいえる1950年代に発刊された、今も愛され続けている超ロングセラーの絵本を紹介します!

こんな方にオススメ!

・日本の超ロングセラーな絵本が気になる
・おじいちゃんおばあちゃん世代がどんな絵本を読んでいたか知りたい
・昔から読み継がれている絵本を読み聞かせしたい

1950年代が日本初版の今も買える絵本

絵雑誌を含め本当に古い絵本は国会図書館などで見ることができますが、今回は今の私たちも簡単に手に入る中での古い絵本を紹介します。

  • このころの絵本は『岩波の子どもの本』のように短編がいくつか収録されている作品が多く、現代の分類では児童書とされているものもありますが今回は当時の絵本として紹介しています。
  • また、『岩波の子どもの本』は当時主流だった右開き・縦書き、さらに同一判型に揃えるべく原著を大きく改変しています。
  • 当時は著作権への考え方が今ほど厳密でなかった時代でもありますが、時代を経るにつれ原作と同じように新版として再出版されているものもあります。その場合は最新のものを紹介しています。

ちびくろ・さんぼ

  • 作 ヘレン・バンナーマン
  • 絵 フランク・ドビアス
  • 訳 光吉夏弥
  • 岩波書店(瑞雲舎)
  • 1953年発刊(2005年復刊)
  • 対象年齢:3歳~

あるところにかわいいくろいおとこの子がいました。なまえをちびくろ・さんぼといいました。 さんぼが新品の服を着て森を歩いているとトラが次々あらわれて?!

Amazon『ちびくろ・さんぼ』商品説明より

衝撃的すぎる、とらのバターで作ったパンケーキ

上記『岩波の子どもの本』で記念すべき初回配本となったうちの1冊です。
とらのバターで作ったパンケーキに憧れた方も多いのでは?
おじいちゃん、おばあちゃん世代から子どもたちが夢中になったお話です。

ですがこの作品には当時の複雑な事情があり、子どもたちが手にできなかった時期があります。
差別問題による自主回収など問題があった作品ですが、子どもとしてはこの世界を純粋に楽しむだけで良いのかもしれません。

でも、大人のわたしたちはこの『ちびくろ・さんぼ』は原作とは大幅に違うものであることを知っていた方が良いでしょう。

ふしぎなたいこ

  • 文 石井桃子
  • 絵 清水崑
  • 岩波書店
  • 1953年12月発刊(1975年改版)
  • 対象年齢:5歳~

日本のなつかしい昔ばなしの中から,「ふしぎなたいこ」「かえるのえんそく」「にげたにおうさん」の3つのお話をえらびました.たっぷりとした墨の線を使った,清水崑氏の大らかな絵が楽しい絵本.

岩波書店『ふしぎなたいこ』

今読んでも楽しい昔話が3篇収録

こちらも『岩波の子どもの本』初回配本のうちの1冊です。

たいこを叩くと鼻が伸びるなんて子どもたちの心を惹きつけますよね。
教訓も含まれているお話ですが、世代を超えて今の子どもたちにも響きます。

「かえるのえんそく」「にげたにおうさん」のお話も収録されています。

ちいさいおうち

  • 文・絵 バージニア・リー・バートン
  • 訳 石井桃子
  • 岩波書店
  • 1954年4月発刊(2021年改版)
  • 対象年齢:4歳~

静かないなかに,ちいさいおうちがたっていました.やがて道路ができ,たかい建物がたち,まわりがにぎやかな町になるにつれて,ちいさいおうちは,ひなぎくの花がさく丘をなつかしく思うのでした.美しい名作絵本.

岩波書店『ちいさいおうち』

判型を原作に戻した新版も出ています

こちらは『岩波の子どもの本』の第二回配本に含まれていた1冊です。
アメリカでも大人気の定番絵本で、あのコールデコット受賞作品でもあります。

これも『ちびくろ・さんぼ』と同様に縦書きにするため絵の反転やレイアウトの変更、判型の改変などが行われていましたが、1965年に大型版として実際の原作と同じサイズ、レイアウトになったものが発売されました。
この時、訳文も省略されていたものがほぼすべて掲載されました。

1981年には『岩波子どもの本』版が左開き・横書きに改版されましたが、文章はカットされた部分もあったようです。

2019年には大型版がより原作に近い色彩が再現されて改版され、表紙も原作と同じようになり、現状この絵本がいちばん原作に近いと言えます。

2021年には『岩波子どもの本』版が改版となり、表紙の絵も原作と同じになりました。

マイタケ
マイタケ

今後もこういう動きは続いていくのかもしれませんね…

おかあさんだいすき

  • 文・絵 マージョリー・フラック
  • 絵 大沢昌助
  • 訳 光吉夏弥
  • 岩波書店
  • 1954年4月発刊(1980年改版)
  • 対象年齢:4歳~

「おかあさんのおたんじょう日になにをあげたらいいかしら」と,ダニーが相談したとき,森のクマさんは,どんなことを教えてくれたでしょうか.幼い子どもと母親との愛情あふれるお話2つ.

岩波書店『おかあさんだいすき』

おかあさんにまつわる二つのお話が収録

こちらも『岩波の子どもの本』の第二回配本に含まれていた1冊ですが、表題のお話が含まれているわけではありません。

マージョリー・フラックによる『おかあさんのたんじょう日』と大沢さんによるスウェーデンのお話『おかあさんのあんでくれたぼうし』の2篇が収録されています。

『おかあさんのたんじょう日』は3歳くらいから読み聞かせできそうですが、『おかあさんのあんでくれたぼうし』は文章的に5歳くらいからでしょうか。
どちらも子どもたちの母への想いが溢れているお話です。

ひとまねこざる

  • 文・絵 H.A.レイ
  • 訳 光吉夏弥
  • 岩波書店
  • 1954年発刊(1998年改版)
  • 対象年齢:4歳~

知りたがりやのこざるのジョージは,動物園からにげだします.食堂の台所にとびこんでおさらを洗ったり,高いビルの窓ふきそうじをしたりしましたが,そのうち映画俳優になりました.

岩波書店『ひとまねこざる』

おさるのジョージとしても有名な作品

こちらは『岩波の子どもの本』の第四回配本に含まれていた1冊です。
「おさるのジョージ」としてアニメ化もされ、今なお愛されている絵本はこの『ひとまねこざる』から始まりました。

原著は1941年、『ひとまねこざる』ではなく『ひとまねこざるときいろいぼうし』が最初です。
日本ではこの『ひとまねこざる』に続いて1959年に『ろけっとこざる』が出版されています。

シリーズは全部で6冊ありますが、『岩波子どもの本』の発刊順ではなく、大型絵本版の順番が原著と同じなので、初めて読むなら大型版『ひとまねこざるときいろいぼうし』がオススメ!

ちなみにこちらも最初は縦書き・右開きで出版されたので、後に改版されています。

『おさるのジョージ』『ひとまねこざる』を元にヴァイパー・インタラクティヴという制作集団が作ったものです。
なので作者であるH.A.レイが原案者として書かれていますね。

はなのすきなうし

  • 文 マンロー・リーフ
  • 絵 ロバート・ローソン
  • 訳 光吉夏弥
  • 岩波書店
  • 1954年12月発刊(2022年改版)
  • 対象年齢:4歳~

むかしスペインの国に,花のすきなフェルジナンドという子牛がいました.ある日,5人の見知らぬ男がやってきて,フェルジナンドをマドリードの闘牛場へ連れていきました.

岩波書店『はなのすきなうし』

レトロながらも少しずつ進化している

こちらも『岩波の子どもの本』の第四回配本に含まれていた1冊です。
赤い表紙がレトロで可愛くて、今でもおしゃれに見えますよね。

主人公の名前が「ふぇるじなんど」と平仮名なことに時代を感じていたのですが、なんと2022年に改版されてついに「フェルジナンド」とカタカナ表記に!
読み聞かせはしやすくなるだろうけど、ひらがな表記のレトロ感も好きなんですよね~

こねこのぴっち

  • 文・絵 ハンス・フィッシャー
  • 訳 石井桃子
  • 岩波書店
  • 1954年12月発刊
  • 対象年齢:4歳~

リゼットおばあさんの家に住んでいる子ねこのぴっちは,ほかのきょうだいたちとはちがうことをして遊びたいと思いました.ところが,アヒルのまねをして池で泳ごうとして,おぼれてしまいます.

岩波書店『こねこのぴっち』

作者が日本語版をとても気に入った作品

これまでの本でも説明したように、基本的に『岩波の子どもの本』はほぼすべて縦書き右開きに改変されており、判型も小型化されています。
当時の編集者によれば、日本での事情を原作出版社には説明したうえで行っていたそうです。

もちろん、ただ画一に押し込めるのではなく、当時中心的存在だった石井桃子さんや光吉夏弥さん、そのほかの編集者の並々ならぬ努力と作業がそこにはありました。

マイタケ
マイタケ

現代では著作権問題となってしまいますが、当時は子どもたちに良質な絵本を届けるべく大人たちが頑張っていた行動のひとつだったんです。

そしてその日本ならではの絵本を原作者の方がものすごく気に入ったパターンがこの作品です。

ハンス・フィッシャー氏によるこの絵本の原作は、『岩波の子どもの本』版と左右で2倍の大きさがあります。
それを苦労を重ね改変・小型化したそうですが、フィッシャー氏はこの日本語版を大変気に入り、何冊も買い上げ、サインを入れていたこともあったようです。

1987年に大型版として原作に近いものも出版されています。

どうぶつ会議

  • 文 エーリヒ・ケストナー
  • 絵 ヴァルター・トリター
  • 訳 光吉夏弥
  • 岩波書店
  • 1954年12月発刊
  • 対象年齢:10歳~

第二次世界大戦後,世界平和のために国際会議がひらかれますが,すこしも成果があがりません.それを見ておこった動物たちは,北アフリカの動物会館にあつまって,動物会議をひらこうと決心します.スローガンはただひとつ「子どもたちのために…….」子どもたちの未来を祈るケストナーの絵本.

岩波書店『どうぶつ会議』

今読んでも心に刺さる作品

舞台は第二次世界大戦後という、私たちにとっては生まれる前の歴史的な場所。
だけどあれから80年近く経ってもなお、人間の愚かさは少しも変わらないと痛感させられます。

ちなみにこちらも例によって縦書き・右開きに改変だけでなく、絵や文章もさっくり削除されている部分が多々あります。

大型版として池田香代子さんによる完全訳のものも出版されているので、読んだことがない方はぜひ!

まりーちゃんとひつじ

  • 文・絵 フランソワーズ
  • 訳 与田準一
  • 岩波書店
  • 1956年12月発刊
  • 対象年齢:4歳~

小さなマリーちゃんと羊のパタポンは,大の仲よし.パタポンが子羊をたくさん産んでくれたらと,マリーちゃんは楽しみに待っています.詩のようにリズミカルな原文の味わいを生かした,かわいい絵本.

岩波書店『まりーちゃんとひつじ』

泣いてる表紙だけどほのぼのした可愛いお話

まりーちゃんとひつじのぱたぽんとのほのぼのとしたカワイイ絵が印象的なお話です。
シリーズ化もされている、アメリカでは大人気のお話。

ちなみにぱたぽんは原作でも「Patapon」と表記されています。
作者はフランス人でアメリカに移住して活躍されたそうですが、このぱたぽんというのはフランス語で「小さい子ども」という意味があります。

この作品も2021年に改版となり、「パタポン」と表記が改められたようです。

かにむかし

  • 文 木下順二
  • 絵 清水崑
  • 岩波書店
  • 1959年12月発刊
  • 対象年齢:4歳~

有名な日本民話「さるかに合戦」が木下順二氏の新解釈により,ユニークな絵本になりました.方言の味わいを生かしたリズミカルな再話に,清水崑氏ののびやかな墨の絵がぴったりです.

岩波書店『かにむかし』

さるかに合戦とは違う?ももたろうみたいな展開

タイトルも『かにむかし』ですが、いわゆる『さるかに合戦』と呼ばれる昔話のくくりになります。
でも、かにが仲間を増やす方法がなぜかきびだんごを配るももたろうパターン!

昔話は口伝がほとんどなので、地域によっていろいろな変貌を遂げていることが多々あります。
こちらは木下さんが佐渡島に伝わるお話をもとに再話されたのですが、きびだんごのくだりは江戸時代からあったそうです。

さるかに合戦についてはこちらの記事でも取り上げています。

きかんしゃ やえもん

  • 文 阿川弘之
  • 絵 岡部冬彦
  • 岩波書店
  • 1959年12月発刊
  • 対象年齢:4歳~

長いあいだ働いて年をとってしまった機関車のやえもん.くず鉄にされる運命が待っていたのですが,ある日,交通博物館の人がゆずってほしいと申しこんできました.のりものずきの子に最適な絵本.

岩波書店『きかんしゃ やえもん』

翻訳作品ばかりというイメージを払拭するため企画された日本の絵本

『岩波子どもの本』は光吉夏弥さんが所蔵していた大量の海外絵本を翻訳することから始まりました。
『ふしぎなたいこ』など昔話の絵本化もされていましたが、シリーズのほとんどが海外絵本が原作のものばかり。

この頃は福音館書店が『こどもの友』の刊行を始めており、絵雑誌ではなく創作絵本の月刊誌としてその存在感を増していました。
そこで岩波書店も翻訳絵本ばかりというイメージを払拭するべく、日本の創作絵本を刊行する企画が持ち上がり、そのひとつとしてこの『きかんしゃ やえもん』は発刊されたのです。

今もなお愛されていることからも分かるように、日本の創作絵本黎明期を飾る傑作のひとつと言って良いでしょう。

マイタケ
マイタケ

『きかんしゃやえもん』の登場が、その後1960年代の日本絵本黄金期到来を告げていたのかもしれませんね!

ビール
ビール

その後の流れをサクッと読みたいなら年代別ベストセラーをまとめたこちらの記事をどうぞ!

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